第1章 – 最悪の月曜日、まあ全部そうだけど ニクスヴァルの街では、磁気レールが石畳の路地の上を浮遊し、空気中に漂う魔力によって雲がライラック色に染まっていた。 そんな街に、カエルという名のキツネが住んでいた。 カエルは怠そうな目をした人型のキツネ。赤茶の毛並みに、無駄に高い知能を内心の愚痴と受け身の皮肉に使っていた。 強い感情も、うるさい人混みも、予期せぬ仕事も大嫌い。 彼の人生の目標:誰にも邪魔されずに勤務時間を生き延びること。 その朝、カエルはぐっすり眠っていた。 くしゃくしゃのシーツに包まれ、あの悪名高いピンクのカワイイくまちゃんパジャマ姿で。趣味悪いけど、恐ろしく着心地が良い──と本人は思っている。 机の上には都市魔法の本、乾いたコーヒーカップ、そして限定版のゲームコントローラーが山積みに。今のところ、それはまだ無事だった。 そこに鳴り響く魔法目覚ましアラームのからかうような声: 「起きろ、モフモフ!月曜だぞ!時間はお前を待たない!」 カエルは答えなかった。ただ、うめいた。 「…くそっ、生きるのしんど…」 ようやく目を開けた。軽いクマ、ぼさぼさの髪、そして「死にてぇ〜」と全力で叫んでるような顔。 彼は伸びをし、あくびをし、立ち上がると── バキッ! 足元で何かを踏んだ。 沈黙。 下を見ると、コントローラーが無惨に砕け散っていた。 「…最悪っ!」とカエルは叫んだ。 しばらく立ち尽くし、悲劇を噛みしめたあと、深くため息をついてつぶやいた: 「生きる気力ゼロの日:またしても月曜日。」 灰色のシャツにダボっとしたズボン、そして彼のトレードマーク──いつもの濃紺のマフラー(曰く「寒さは魂から来る」)を身につけ、彼は部屋を出た。 階段を降りる途中、フェレットのおばあさん、ムリさんに出会った。 「カエルちゃん!今日は広場で朗読会があるのよ!ドラゴンの詩よ、ドラゴン!」 「それに食われた方がマシです」 と立ち止まらずに返すカエル。 ニクスヴァル中央書庫──それはカフェとお守り屋に挟まれた、古くて四角くて悲しげな建物。 カエルはそこでアーカイブ補佐として働いていた。 響きだけは格好いいが、実態は埃っぽい本の整理と魔法文書の分類、封印された物品に関わらないこと。以上。 彼が玄関をくぐると、受付ゴーレムのE13の無機質な声が出迎えた。 「おはようございます、カエル。」 「おはようじゃねーよ。月曜だぞ。」 デスクに向かおうとした瞬間、声が飛んできた。 「カエルーッ!」 ──廊下の奥から、上司の声。 それは彼だった。 アーカイブの所長、グラヴォス氏。重たい声に厳しい眼差し、そしてまるで意志を持つかのように浮かぶ魔法のヒゲを持つアナグマ。 「来い。現地調査だ。」 カエルはまばたきした。「え?」 「博物館だ。非公開の収蔵品をこっちで引き取ることになった。中立評価員が必要だ。」 「俺、中立ですか?」 「いや、安上がりなんだよ。行くぞ。」 ニクスヴァルの魔法遺物博物館は、中世のお城と宇宙ステーションを混ぜたような建物だった。 ガラス天井、生きている柱、浮遊する展示物。 カエルはここが大嫌いだった。変な香の匂いと元気すぎる子どもたち。 古代芸術の廊下を歩きながら、カエルは内心ずっと文句を垂れていた。 「なんでリオールを送らなかった?ジュナでもいいだろ!俺、呪物の鑑定なんかできねぇし!」 所長は彼を封印室へと連れて行った。 扉が開くと、空気が変わった。 何世紀もの埃が、魔法の光の中で舞っている。中央の台座には赤い布をかぶった壺。 ラベルは無い。ただ古代文字だけ。 「これが歴史的価値のある物か、ただのカルト装飾かを判別しろ」とグラヴォス。 カエルは疑わしげにそれを見る。 「で、もし爆発したら?」 「その時は、それが価値だ。」 カエルはため息をつき、壺に近づき、触れた。 その瞬間──部屋が揺れた。 布が吹き飛び、壺が紫の光で輝き、ルーンが発動した。 カエルは慌てて後退した。 「やばいやばいやばい——!」 ドッカーン! 紫煙が巻き起こり、壁が笑い声で震えた。 「ついに自由の身だああああ!」 壺から現れたのは、光る目と回転するローブを持つ高く浮かぶ存在。 それは、魔力そのもののような存在感を持った──陽キャな魔人だった。 「誰だあああ!我の千年の眠りを破ったのはッ!?」 カエルはそっと手を上げた。 「俺っす。いや、命令されて触っただけっす。謝罪書なら書きます。」 魔人はじっと彼を見つめ… そしてニヤリと笑った。 「おめでとう、哀れなキツネよ!汝は聖なる宿命の新たな担い手に選ばれたのだ!」 「は?」 「お前は次なる偉大なる勇──!」 「やめろ!!」カエルは鋭く叫び、手を上げて制した。「その単語、言うな。」 「ゆ…ゆう──?」 「言うなって言ったろ!!」 魔人は困惑して彼を見た。 「でも…そういう風に呪いって始まるものじゃん…?」 カエルは深いため息をついた。 「聞け、煙のオッサン。俺はただ働きに来ただけだ。冒険なんかしたくない。予言もいらん。 椅子に戻って、ぬるいコーヒー飲んで、地味に書類を整理したいだけの凡人なんだよ。」 魔人はまばたきした。 「じゃあ、もし断ったら壺が割れて世界が闇に飲まれるとしても?」 「だったら、それやる気ある誰かに任せろや。」 「カエル!」──廊下から所長の怒鳴り声。 カエルと魔人は見つめ合った。 「壺の中に戻ってくれ。今度はマジで触らんから。」 「ん〜無理。魔法のルール上、もう契約成立しちゃった。お前、もう印ついてる。」 カエルは目を閉じた。 「魔人の呪いを受けた日:よりによって月曜日。」
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